「福岡案件、順調?」
課長の高岡から短いメッセージが届いた。
感情もない業務連絡そのものの文面だ。
西島はキーボードを叩く。
「はい。架台の組立て工程に入っています。キュービクルの製作図面も上がってきました。」
ほんの数分後、返信が来る。
「了解。次回の会議で進捗報告お願いします。」
それだけだった。
画面を閉じる前にもう一度自分の送った文章を読み返す。
嘘はない。誇張もしていない。事実を並べただけだ。
ディスプレイには桐生から送られてきた最新の工程表が開かれている。
造成完了。
杭打ち完了。
引き抜き試験、規定値クリア。
架台組立て、予定通り。
遅れもない。
工程線は当初予定とほぼ重なっている。
――順調だ。
そう報告することに何の迷いもなかった。
これ以上、何を疑えばいいのか分からないほどすべてが整っていた。
工程表を閉じ報告用の資料フォルダを開く。
そのときスマートフォンが小さく震えた。
仕事とは無関係ないつもの何気ないSNSの投稿に「いいね」が一つ付いている。
misonikomi-denki。
後藤田。
名古屋で会った、あの電気屋。
一瞬だけ指が止まる。
西島はその思考を意識的に切り替える。
今は考える必要がない。
少なくとも仕事上には関係ない。
そう結論づけスマートフォンを伏せる。
再びパソコンを向き、報告書を作成する。
「福岡案件、工程は計画どおり進行中。次月、完工予定。」
文字にするとさらに盤石に見える。
太陽光発電事業は数字で評価される仕事だ。
感覚や予感は報告書には書かれない。
太陽は今日も変わらず照っている。
福岡の現場でも組立中のパネルの上に同じ光が降り注いでいるはずだ。
その光の下で発電所は静かに完成へと近づいている。
そして、その影が
少しずつ伸び始めていることに――
このときの西島はまだ気づいていなかった。
【キュービクル|MEMO】
高圧の受変電設備を収納した金属製の箱。太陽光発電所ではパワーコンディショナで変換された電気をさらに高圧へ昇圧し、電力会社の系統へ送電する役割を担う。
内部には変圧器、遮断器、保護継電器などが設置されている。




