第7話|トーナメント表(専門版)

連載小説2026.03.8

数日後、汐里からWeb会議の招待が届いた。
時刻は夕方前。俺が一息をついているタイミングを彼女はよく知っている。

接続すると音声だけが繋がる。
相変わらず、画面はオフのままだ。

「お疲れさまです。福岡、どうでした?」
雑談に近い、柔らかい口調。

「問題なかったです。現地も引き抜き試験の結果も」

そう答えると、少し間が空いてから返事が返ってきた。
「よかったです」
その一言には数字よりも感情が含まれている気がした。

「……私、太陽光発電、好きなんです」

すこし沈黙があって、汐里は、少し照れたような間を挟んで言った。

「環境に優しいエネルギーって感じで。地球のために仕事をしているなって思ってて」

西島は思わず口元が緩むのを感じた。
工場で電気を扱っていた頃、「環境に優しい」なんて言葉は浮かんだこともなかった。

「でも……」汐里は続ける。

「会議の内容は正直ほとんど分かってなくて。専門用語ばっかりで……」
少し言い淀んでから、言葉を探すように続けた。

「ほら、あの……
トーナメント表みたいなやつとか」

西島は一瞬、頭の中で変換する。

トーナメント表。

「……単線結線図、ですね?」

「あ、それです!」
少しだけ、声が明るくなる。

「いつも名前が出てこなくて」
汐里は笑いながら言った。

西島は簡単に説明を始める。
発電所で発電した電気がどこを通って、どの機器を経由して、系統に流れるか。
事故があったらどの継電器が検知しどこで遮断されるのか。

会議はそれ以上、仕事の話にはならなかった。
気がつけば、終了時刻になっていた。

会議を終え、椅子にもたれかかる。静かな部屋。エアコンの音だけが残る。

そのとき、スマホが震えた。

SNSの通知。

福岡で食べた蕎麦の写真。
何気なく投稿した一枚にコメントが付いている。

「ここ、行ったことあります!」

アカウント名は misonikomi-denki

味噌煮込み。電気。
名古屋。。

「……名古屋の電気屋?」
思わず、そう呟く。

同業者だろうか。

画面をスクロールし、
過去の投稿を軽く眺める。

電気設備。現場写真。業界用語。
完全に同じ世界の人間だ。

なぜか、少しだけ胸がざわついた。

だが、その違和感に名前を付けるほど、
俺は深く考えなかった。

そのときはまだ、この小さな接点が後になって思い返されることになるとは、
知る由もなかった。


【単線結線図|MEMO】

発電所や工場などの電気設備を、一本の線で簡略的に表した図面。
電気回路を省略記号を用いて示す。
変圧器、遮断器、開閉器、保護継電器などが配置され、設備全体の電気的な構成や保護方式を把握するために用いられる。

第8話|名古屋の同業者(専門版)→

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