数日後、汐里からWeb会議の招待が届いた。
時刻は夕方前。俺が一息をついているタイミングを彼女はよく知っている。
接続すると音声だけが繋がる。
相変わらず、画面はオフのままだ。
「お疲れさまです。福岡、どうでした?」
雑談に近い、柔らかい口調。
「問題なかったです。現地も引き抜き試験の結果も」
そう答えると、少し間が空いてから返事が返ってきた。
「よかったです」
その一言には数字よりも感情が含まれている気がした。
「……私、太陽光発電、好きなんです」
すこし沈黙があって、汐里は、少し照れたような間を挟んで言った。
「環境に優しいエネルギーって感じで。地球のために仕事をしているなって思ってて」
西島は思わず口元が緩むのを感じた。
工場で電気を扱っていた頃、「環境に優しい」なんて言葉は浮かんだこともなかった。
「でも……」汐里は続ける。
「会議の内容は正直ほとんど分かってなくて。専門用語ばっかりで……」
少し言い淀んでから、言葉を探すように続けた。
「ほら、あの……
トーナメント表みたいなやつとか」
西島は一瞬、頭の中で変換する。
トーナメント表。
「……単線結線図、ですね?」
「あ、それです!」
少しだけ、声が明るくなる。
「いつも名前が出てこなくて」
汐里は笑いながら言った。
西島は簡単に説明を始める。
発電所で発電した電気がどこを通って、どの機器を経由して、系統に流れるか。
事故があったらどの継電器が検知しどこで遮断されるのか。
会議はそれ以上、仕事の話にはならなかった。
気がつけば、終了時刻になっていた。
会議を終え、椅子にもたれかかる。静かな部屋。エアコンの音だけが残る。
そのとき、スマホが震えた。
SNSの通知。
福岡で食べた蕎麦の写真。
何気なく投稿した一枚にコメントが付いている。
「ここ、行ったことあります!」
アカウント名は misonikomi-denki
味噌煮込み。電気。
名古屋。。
「……名古屋の電気屋?」
思わず、そう呟く。
同業者だろうか。
画面をスクロールし、
過去の投稿を軽く眺める。
電気設備。現場写真。業界用語。
完全に同じ世界の人間だ。
なぜか、少しだけ胸がざわついた。
だが、その違和感に名前を付けるほど、
俺は深く考えなかった。
そのときはまだ、この小さな接点が後になって思い返されることになるとは、
知る由もなかった。
【単線結線図|MEMO】
発電所や工場などの電気設備を、一本の線で簡略的に表した図面。
電気回路を省略記号を用いて示す。
変圧器、遮断器、開閉器、保護継電器などが配置され、設備全体の電気的な構成や保護方式を把握するために用いられる。




