第3話|発電事業者という仕事(専門版)

連載小説2026.02.25

「西島さん、今度の案件です」

汐里が画面を共有する。
そこには、草原に整然と並ぶ太陽光パネルのパース図が映し出されていた。

青い空。
遠くに連なる緑の稜線。
その斜面に、規則正しく並べられた青いパネル。

一枚一枚が太陽の光を受け止め、静かに電気を生み出している。

完成予想図。
まだ存在しない発電所の「未来」。

――太陽の光を、そのまま電気に変える。

燃やすものは何もない。
煙も出ない。
音もしない。

以前働いていた工場では、電気は「止めてはいけないもの」だった。
止まれば生産が止まり、止まれば人が怒り、止まれば責任の所在が宙に浮く。

警報が鳴れば、夜中でも呼び出される。
設備は、常に“完璧に動いていて当たり前”だった。

だが、画面の中の世界は違う。
太陽は、誰かに命令されなくても昇る。
光は、怒られても、急かされても、変わらず照らす。
雲がかかれば少し弱くなるが、それも含めて「自然」だ。

俺は、その“当たり前”の上に仕事をしている。
「……きれいですね」
思わず漏れた言葉だった。
自分でも驚くほど、素直な感想だった。

汐里は一瞬だけ間を置いて、画面の向こうでうなずいた。
「完成したら、このまま二十年、電気をつくり続けるんです」
少しだけ、誇らしげな声だった。

二十年。

その言葉が、頭の中で反響する。

工場で働いていた頃、二十年先のことなんて考えたこともなかった。
考えるのは、今日の点検。今夜の警報。
次に壊れそうな設備。

一日が終われば、それで精一杯だった。

「……いい仕事ですね」
それは、誰に言ったわけでもない言葉だった。

汐里に向けたものでもなく、自分自身に言い聞かせるような響きだった。

正直に言えば、この仕事を選んだ理由は、最初は単純だった。
夜中に呼び出されない。
警報が鳴り続けない。
怒鳴られない。

それだけで、十分だった。
だが今、画面の中のパース図を見ながら思う。
楽そうだから選んだ仕事が、いつの間にか「意味のある仕事」に見え始めていたのかもしれない。

「土地は取得済みで、工事はネクサス工建に発注済みです」
汐里は淡々と説明を続ける。

「FITは十二円。権利付きです」

FIT。固定価格買取制度。
二十年間、決まった価格で電気を買い取ってもらえる。
この制度があるから、金融機関は融資を出し、事業として成立する。

制度、数字、契約。そこに感情はない。
だが、その先には、確実に“二十年後の風景”がある。
発電所は、誰かの生活の裏側で、黙々と電気をつくり続ける。
工場で聞き続けた警報音とは、まるで正反対の世界だった。

「何か、気になる点ありますか?」

汐里の問いに、俺は首を振った。

「いえ。……ちゃんと見に行きたいですね、ここ」
「はい。現地確認、予定入れます」
画面が切り替わり、次の資料が映る。

だが俺の頭の中には、まだ、最初のパース図が残っていた。

まだ存在しないはずの未来。
だが、確かにそこにある未来。
太陽光発電事業という仕事は、電気をつくる仕事であると同時に“時間”を扱う仕事なのかもしれない。二十年という、長い時間を。

【パース図|MEMO】
完成後の姿を、事前に描いた予想図。
発電所がどのような風景になるのかを関係者に共有するために用いられる。
まだ存在しない設備の「未来」を視覚的に示す役割を持つ。

【太陽光発電事業者|MEMO】
土地を取得し、太陽光発電設備を設置・運営する事業者。
発電した電気を売電することで収益を得る。
設置後も、発電量の管理、設備点検、保守対応など、長期的な運営責任を負う。

【FIT|MEMO】
固定価格買取制度(Feed-in Tariff)。
再生可能エネルギーで発電した電気を、国が定めた価格で一定期間、電力会社が買い取ることを保証する制度。太陽光発電では、発電開始時に決定した単価が原則20年間固定される。ただし、制度開始以降、買取価格は年々低下しており、初期の高単価案件ほど事業性は高い。

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